福島のアトリエの外の照明が、上から照らされているのを見て、私の造園の師匠である「荻野寿也」さんが、こう仰られました。
「良いですね!ハウスメーカーのお庭やスーパーの集い場のように、下から植物を照らしたらあきませんよ。夜の灯りで1番美しいものは何だと思いますか?そう、月明かりなんですよ。こうやって、なるべく月明かりのように上から照らしてあげて下さい。植物たちが色っぽくなりますからね」と。
弊社は、ダイニングにはなるべく「ペンダント」を使います。
意匠的にも美しいのは勿論のこと、天井ではなく、「床と壁と手元が明るくなる」からです。
最近の流行の家は、明かりを確保するためにところ構わずダウンライトを付けていますよね。
「灯りの重心は低い方が良い。天井より、床や壁や手元を照らすことによって、空間はグッと落ち着きながらも暖かさを演出してくれるから」
巨匠・吉村順三さんは言います。
「江戸時代の夜は、外の月明かり以外は、家の中だとロウソクの灯りぐらいしか無かったんですよ。だから、現代の日本人のDNAには、明かりを少し抑えて、重心を低くすると居心地が良いと感じるものがあるんですよ」と。
香川県に「イサム・ノグチ」の生家があります。
彼のデザインした照明もまた私は大好きなのですが、
その生家から外のお庭を見たとき、不思議な感覚におそわれました。
「なぜこんなに落ち着くのだろう? 特別すごいお庭でもないのに…」
その答えは「陰影」にあるのだと気付く事ができました。生家の中が、ほんの少し薄暗いんですね。
現代の流行の住宅に置き換えると、ダウンライトがところ構わずあるのとは訳が違うんですね。
“有るべきところに必要な分だけ灯りが有る”んですね。
「ほんの少し暗い内部空間から外を見たとき、外は美しく見える」
そして「陰影」にとって、もう一つ大事な要素があるんです。
それは、「開口部の配置と数量」です。
一般的に他社では、なにも考えずに壁の真ん中にドーンと窓を設けているところを多く見かけます。
そして、決まり切ったかのように図面上にCADで窓を落とし込んで、サッシ屋の展示場を思わせる程の窓の数量ですよね。
もう本当にこんなに短絡的な設計はないですよね…
例えば、(壁の構造計算が担保されるのであれば)開口部を端に持ってくるのはどうでしょうか。
ル・コルビジェのフランスの「ロンシャン教会」や
安藤忠雄さんの「光りの教会」のように、
空間が神秘的なものに生まれ変わります。
それは、窓を端に設けたことによって、壁の「陰影」が生まれたからなんです。
「明かりとは、むしろ陰影を大切にすること」
台所などの手作業をする部屋には、少し白色が入った照明を使い、しっかりと手元を照らしてやります。
もう少し灯りが欲しい時には、スタンドなどで手元を明るくします。
ただし基本は、ほんの少し「灯りのトーン」を品よく抑えてやります。
それでも夜になると、電球色が家全体に「温もり」を与えてくれ、尚且つ、家も人も「色っぽくカッコ良く」なります。
木の文化を持つ「北欧」は夜が長く寒いので、自然と家で過ごす時間が多くなります。
おのずと内装インテリアや家具のセンスは洗練されていきますよね。
北欧では、夜にわざと照明を消して、家族でロウソクの灯りだけでご飯を食べる至福の時間があると聞きます。
それを、「ヒュッゲ」と言います。
家族でお洒落な時間を過ごすわけです。
子供は、幼少期からそんな暮らしをしていくので、自然と感性は豊かになっていきますよね。
同じ木の文化を持つ日本で、絶対的な人気を誇る「北欧の家具」はこうした環境の中から生まれてくるのです。
「陰影を大切にすると空間に深みが生まれます」
さて4シリーズはこれで終わりますが、まだまだ私共の「建築哲学」は尽きません。
日々、建築を「知の欲求」のまま追究しているからです。
これからも少しずつ語っていきたいと思います。
皆様良いお年を^^
by 安藤洋介