小高い丘の上に建つ平屋の住宅と農業用倉庫。
私の好きな風景は決まって、自然世界の中に、伝統美と現代的な観念を融合させた木造建築が佇む様。
少しでもその絵に近づけるように建て主から依頼を受け、もの造りを続けているように思います。
同時に、「本物を造りたい」という信念を持って仕事をしてきました。
本物とはかなり漠然とした言葉ですが、それは自分の手でやってみなければ事の真髄は見えてこないような気がしてならないのです。
このプロジェクトもまたいつものように周りの助けを借りながら、設計、大工工事、造園の全てを自分の手で造り上げることができましたので、なにか一つ掴めたような気がしています。
現場での経験を通して感じていることですが、最初に考えた納まり図通りに完成する建築はありません。
しかし、納まりについて工事途中で考えることは、大抵その場しのぎに過ぎず、やはり工事が始まる前に机上で入念に考察し、それを図面に丁寧に落とし込んでいく作業がとても重要な事だと思っています。
ですから、ディテール図面を描くときや材木を刻むときには、
全ての納まりの辻褄が合うように、
構造上の筋が通るように、
そういったものをいつも頭に置いて、仕上がりから逆算して精度を高めて図面を描いていきます。
加えて、構造材が現しの木造建築は、機械によるプレカット加工ができない部分が多く、大工による手刻みが不可欠です。
ですから刻みでは、材の選定から、寸法や組み方までを決定するため、材を見る目と無垢木を扱う技術が要求されます。
ごまかしのきかない仕事だからでしょうか、
そこに、日本人的な簡素な美を感じてしまいます。
建築学を追究し続けると腹を決めた大工棟梁が、
設計から施工あわせて監理、そして造園までを精一杯行うことこそが、
精神性のある美しい木造建築を造りだすものだと信じています。
by 安藤洋介