安藤建築設計事務所/安藤工務店の「純粋な木造建築」を造っていると、
いよいよ「突き鑿(のみ)」が必要だということになった。
突き鑿(のみ)とは、金槌で頭を叩いて使う通常の鑿ではなく、読んで字のごとく「突くだけで」木を刻むもの。
そこで。
日本最大と言っても良い、刃物の祭典が行われている「三木」に初めて行って来ました。
私が駆け出しの頃の20数年前、研ぎを極めていたとき、
「本物」の鑿(のみ)として全国に名が知れ渡っていたのは、大内(本家と分家が当時はあった)と、高芝と、きつねという3社でした。
この3社は、当時でも、他の鑿の2倍の金額でした。
でも、私はいつも「一流の手道具を使わなければ、一流の仕事はできない」という生意気な信念があったので、迷うことなくこの3社の良い鑿を買っていました。
お給料は少ないけれど、自分に投資することに迷いはありませんでした。
そうですね、経験から言うと、
一流のものを握ると自然と身体にとてつもない緊張感が走るので、
おのずと「研ぎ」や「目の前の仕事」は、精神性の高いものになります。
当時、色々な先輩大工やお爺さん大工から言われた言葉。
「二流者が、一流の道具を使っても駄目や。まずは二流の道具から買え」と。
でも、私は、二十歳そこそこの小僧でありながら生意気にも心の中で、
「いや、それは違う。二流だからこそ一流の道具を使う心構えがなければ、いつまでも二流のままだ」と思っていました。
鉄の意思がありました
話を戻します。
さて、三木の刃物祭りに行くとなんと、大内の本家の4代目が店頭に立っていました。
そこで貴重な話を聞くことができましたよ。
今は、海外からの受注が多いそうです。
例えば、カナダやアメリカなどの富裕層は本物の「日本建築」に憧れがあるそうで、海外ではよく建っているそうです。
造り手は、日本で木造建築を覚えた海外の職人?が建っているそうですね。
さて、突き鑿の値段を見てみると…。
やはり通常の「突き鑿」の3倍の値段でしたね。
1~2分間悩みましたが、これから建つ安藤工務店の建築も本物ですので、
その大内の本家の鑿を買って帰りましたよ。
岡山に帰ると早速研いで、いつでも使えるようにしておきました。
研ぎ上げたので、もうこれで私の「手の延長」になりました。
技術者の力量を見極めようとした時、わざわざ仕事を見なくても、その人の道具と研ぎだけを見れば、一流かどうか分かります。
安藤洋介