私にとっての奇跡。

 

安藤工務店の絶対的スタイルは、

「木造住宅で最も重要なセクションである「設計」と「棟梁」は自分達でやる事」

これだけは譲れないと今までやってきた。

なぜなら、設計だけなら本物には辿り着けないと思っているし、

大工仕事だけなら創造したことにならないからだ。

 

 

最近、実は人知れず安藤工務店創業以来のピンチに立たされていた。

 

今までは上手い具合に散りばめられてきた物件が、今春から着工する全ての物件が集ってしまい逃げられない状態となり二者択一を狭られていたのだ。

①「他社のように安藤工務店もついに外注部隊でこなす準備をしなければいけないのか」

②「いや、安藤工務店のスタイルを貫くために、手が回らない物件はお断わりするか」

 

もう既にそれぞれのクライアントには、予定工期は延ばしてもらっている。これ以上はもうお願いできない・・。

追い込まれていた。

 

これだけの物件を抱えている状態は、経営者があたかも欲どおしく物件を抱え込む様に見えたらしく、周りからは四面楚歌状態だった。

でもそれは何度自問自答しても違った。

私はどの物件にも相当の思い入れがあり、クライアントも好きだ。どう考えても断わる材料が見つからなかったのだ。

 

これを乗り切るには「妥協して他社と同じく外注を使わざるを得ない」と半分諦めかけていた。ノイローゼ状態だった。

 

そんな中、

「あるクライアントご夫妻に会って想いのたけをぶつけて、たとえ1ヶ月でも予定を延ばしてもらおう」と思っていた。

 

そのご夫妻と先日お会いした。

ご夫妻は一言爽やかに仰った。

「安藤さんの仕事のペースに合わせますよ。どれぐらい延ばしますか?半年?一年?」

 

私にとっての奇跡が起きた。

お二人の優しさに目頭が熱くなった。

実は私はこのお二人に初めてお会いした時から尊敬し惹かれていた。

なんせ半端じゃないからだ。

 

「Y様邸が安藤工務店にとって最後の建築になっても良い」とさえ思うほどの覚悟がこの胸にはある。

それはべつに熱い決意とかではなく、不思議なほど冷静で潔い風が身体を流れている。

 

このご恩は建築で必ずお返しする。

 

by 安藤洋介