加工した米松の掛け(ガケ)を躯体に取り付けて、
事前に背割りを埋めて加工しておいたヒノキの上小節の柱を立てて、土庇の施工開始です。
日本建築や神社仏閣ではお馴染みの「追っかけ大栓継ぎ」を墨付けて刻んで、
私と弟子の二人だけで人力で組んでいきます。
木造伝統工法の継手の中で「最も強くて美しい」と言われている最高級の継手です。
組み上げた後は、木の釘と言われる15㎜角の「込み栓」(材質は樫の木で、金槌の柄や木刀、叩き鑿の柄、鉋の台などに使われる最も堅い木)を打ち込んでいきます。
油分をわざと残してある(いま流行の完全強制乾燥ではない)木目がきれいな米松の桁と、
ヒノキの柱を繋いでいる接合点も「込み栓」を打ち込んで納めます。
面白いもので、構造計算の倍率を見たとき、第三者瑕疵保険のために指定された構造金物を使用するより、
この伝統工法の「込み栓」の方が耐久性の数値は高いんですね。
柱の枘(ほぞ)は通常5㎝前後ですが、
ここは込み栓を打ち込むので倍の10㎝ほど有ります。
そりゃ強いですよね。
阪神大震災時に倒壊した伝統建築を分析してみると、どれも壁の貫の「枘が浅い」んですね。
貫が貫になっていないんです。
たとえ地震に不利な瓦を使用していても、倒壊していない伝統建築をいくつか調べると、
貫の「枘が長い」んですね。
有事の時に初めて、妥協せず作り上げた棟梁の情熱が分かるわけです。
まさに、幸田露伴の「五重の塔」です。
福島のアトリエの軒の出は1.5メートルです。これでも圧倒的に深いですが、
ここは柱もあって、1.8メートルとなります。
造っていると、行き交う人達が立ち止まるほどの「深い軒」で、羨ましく感じるほどの上質な、とっておきの空間となりました。
「夏の夕暮れ時の厳しい日射しを緩和し、冬の暖かい西日を取り込む」、想定通りの土庇となりました。
もの造りに携わるなかで、やった仕事を人に褒められると勿論嬉しいけれど、
同時に自己評価も高くないと満足できないですよね。
この土庇は、大屋根と同じ「節有りの杉板」を使用していますが、同じ物とは思えないほど綺麗に化けさせる事ができました。
私的にはとても満足しています。
やはり、人の目に近いところですからね。
なるべく綺麗なものを…。
最後は、あぶらとり紙の養生を剥がして、雨が当たっても良いように新たに防水シートでヒノキ柱を養生して完了です。
この美しい状態をそのままY様にお届けして、最後に感動していただきたいですからね。
経年変化は、お引き渡し後ゆっくり味わってくださいね。
言わないと分からない仕事を一つだけお教えしますね。
ウッドデッキの床下になり一生見えなくなるので普通はそこまでしませんが、万が一に雨水が入り込まないよう、
床の土間と柱を繋げるために柱に掘った穴を埋めておきました。
40分ほどのひと手間が、2~3年の耐久性を発揮しますからね。
「普通はそこまでしないけれど、やっただけの事はある」と判断したときは迷うことなく貫きますが、
マニアックなのでお話しするのはここまで(笑)
部屋内から完成した土庇越しに外を眺めると、
まだ作られていない木塀と、まだ植えられていないモミジやアオダモなどの木々が眼前に広がって…。
ほんの少し手を止めて、まだ見ぬ風景に見とれてしまいました。
by 安藤洋介